東京高等裁判所 昭和57年(う)1253号 判決
所論は、要するに、原判決は、被告人においてアルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で普通貨物自動車を運転した旨認定判示しているが、被告人は、本件の前日午後六時ころから同八時ころまでの間、友人と共に飲酒したものの、その後数時間の睡眠をとつており、翌日の午前零時ころ食事をしたときにはワインを二、三口くらい飲んだだけであるから、本件運転をしていた同日の午前一時すぎころにはアルコールの影響下になかつたものであり、原判決には右の点につき事実を誤認した違法があつて破棄を免れない、というのである。
よつて、原判決が挙示する証拠を検討するのに、なるほど被告人の供述するところによれば被告人の直前の飲酒量や行動経過については、本件犯行の前日である昭和五六年七月一八日午後六時ころから同八時ころまでの間、ウイスキー水割り五、六杯を飲酒し、その後数時間にわたつて睡眠をとつて深夜に再び起き出し、レストランに赴いて知合いのクラブのホステスらを呼んで共に食事をし、そこではワインを二、三口ないしグラス一、二杯飲酒しただけであつたが、右ホステスを乗せて自動車を運転走行中、翌日の午前一時二〇分ころに及んで警察官の職務質問にあい酒酔い運転のかどで検挙されたということになつているが、これらがすべて正確に事実を伝えているかどうかは暫く措き、前記ウイスキーの摂取量やその後の経過時間等に基づいて算出されたところによつても、被告人は当時呼気一リツトル中に〇・四ミリグラムのアルコールを身体に保有していたことになるのであり、そして、何よりも当時の状況として、被告人が職務質問を受ける直前においてその運転する車両が蛇行気味に走行していたことが現認されており、そのうえ、運転席に座つていた被告人の顔面は真赤で強い酒臭がし、自動車から降りたつた際の様子はズボンの前チヤツクをはだけ、左右にふらついて約一〇メコトルの間を正常に歩行することができず、約八秒以上は直立していることもできない状態であつたことが確認され、警察官の質間に対しては大声でわめくようにして、「飲んでないといつてるでしよう。コーラしか飲んでないよ。」などと応答し、アルコール検知のため呼気採取に応ずるよう求められるや、わざと息を弱くし手渡された風船がふくらまないようにして呼気検査を事実上拒否した事実も認められ、この点については後に捜査官に対し酒酔い運転が判明するのを懸念したためである旨を自認しており、以上のような被告人の飲酒状況、運転走行状況、職務質問を受けた際の被告人の外貌、言語態度にあらわれた特徴や、身体の運動能力の状況などを総合すれば、被告人が本件運転時にアルコールの影響によつて正常な運転ができないおそれがある状態にあつたことは、これを認めるに十分であるということができ、態度が粗暴で声の大きいのは被告人の“地”であるとの所論の主張を考慮に加えても、右認定が左右されるものとは思われないから、原判決に所論のような事実誤認はなく、この点の論旨は理由がない。